【雑記】ナイキの厚底が禁止になるかもしれない話を陸上競技的視点で観てみる
陸上好きにはおなじみのナイキ・ヴェイパーフライ。
カーボンプレートが内蔵された厚底ランニングシューズで、それまで薄底シューズが主流だった長距離界を荒らしてナイキ一色に染めたシューズです。
登場当初からその反発力の高さから『ドーピングシューズ』と揶揄されてきたこのシューズですが、ついに陸連がNGを出しそう。
っていうニュースが世間を賑わせています。直近の箱根駅伝でもヴェイパ―フライが区間記録を出しまくったけに、世間の注目も高い様子。
世間の注目もそろそろ逸れた頃ですので、ここでも取り上げようかと思います。
今回は
ヴェイパ―フライ禁止騒動を陸上的視点で観る
と称して、この騒動をご紹介。
ヴェイパ―フライがきわどい理由は?
そもそもこれがわかっていないと話になりません。
ヴェイパ―フライが禁止されるかもしれない理由はいったい何なのでしょうか?
ルール的には助力になるシューズはNG
陸連がヴェイパ―フライの禁止を検討している理由は簡単で、助力になるっぽいから。
日本陸連のルールで紹介すると、第143条に競技用靴の項がある。
使用される靴はどのようなものであっても、陸上競技の普遍的精神に合致し合理的かつ無理なく入手できるものでなくてはならない。
バネ構造が仕組まれている靴はダメっていうことで、ヴェイパ―フライはカーボンプレートによる反発がこの『助力や利益を与える』っていうところに引っ掛かる可能性があるのだ。
これだけ世界中で好記録が連発されているんだから、助力や利益を与えていることは否定できないだろう。
が、それはルール的にアウトなのか?というのが難しいところ。
間違えてはいけないのは、厚底だからダメなのではないということだ。厚底が特徴のシューズではあるものの、ルール上は厚いから禁止ということはない。厚さについては後述するが「さしつかえない」とされている。
『厚底で疲れにくいのに速く走れてズルイから禁止』なのではなく、『助力になる反発があるから禁止』ということで議論になっているのだろう。
ヴェイパ―フライの反発の高さについては、靴をビヨ~~ンと高く跳ねあげる動画が出て話題になったこともある。登場直後からこのシューズはさすがにダメだろっていう話は出ていた。
反発がダメならスパイクもダメ?
ルール上は助力や利益をアウトとしているが、スパイクのプレートはセーフだ。ここの線引きは程度の問題だと思われる。
ヴェイパ―フライにはカーボンプレートが入っていて、これがしなることで高い反発力を出す。ランニングシューズとしては珍しい特徴ではあるが、最近はミズノのウエーブデュエルをはじめとしてニューバランスのシューズなんかにもプレート構造が取り入れられているし、スパイクには昔からカーボンプレートが使われている。
翻って考えると、これまでヴェイパ―フライがセーフだった理由は、競技用靴として実績のある「プレート」の技術をそのままランニングシューズに流用したからだ。プレートはいままでスパイクでオッケーだったので、その反発は助力には当たらないと言えるはずだ。
ルールとしては、バネのような露骨な助力はダメだとしている。しかし、プレートの反発については黙認しているのが現状だ。この線引きについては明確ではない。反発係数やらで明文化する手もあるが、そうなるとなにかと面倒だ。
今回の問題で面倒くさいのは、これが禁止になると短距離スパイクにも何かしらの影響が出かねないということだ。
厚底が禁止されている種目もある
『ヴェイパ―フライで高跳びやれば勝てるんじゃね?』
っと思った人もいるでしょう。半分その通りです。
ヴェイパ―フライは厚底であってもそれ自体はマラソンシューズとしては違反ではない。ただ、ルール(同じく143条の靴底と踵という項)で厚底シューズが禁止されている種目があるのです。
それが幅跳び・高跳びの2種目だ。
〔注意〕 靴底と踵の厚さは、靴の内部にある靴底の最上部と靴の外部にある靴底の最下部で計測され、これには前述の構造、または取り外し可能な中敷も含まれる。
つまり、高跳びと幅跳びでは13mmより分厚いシューズを使ってはいけないのです。
普通にスパイクを履いていればそんな厚さのものはないので気にすることはない規則ですが、ヴェイパーフライだと13mmどころか3cm以上あるので幅・高で使うと反則です。
一方で、『その他の種目における靴底と踵はどのような厚さでもさしつかえない。』という一文がある通り、ルールとしては厚底で速く走れるシューズなんてものは想定していないのがわかる。
幅・高以外の靴としては厚底は禁止されていないどころか、さしつかえないのだ。
ヴェイパ―フライ騒動でルールを改正するのであればついでに厚さについても改正すると思うが、現状は厚くてもオッケー。
リオもナイキ一色だったんだぞ!!
ヴェイパ―が注目されている理由の一つに、『箱根でみんな履いてた』っていうのがあるでしょう。実際、2020年の箱根ではナイキが8割以上のシェアを持っていて、異様な光景でした。
が、陸上ファンであればナイキ一色のその光景に既視感があったはず。
そう、リオ五輪の方がヤバかった!!
リオ五輪といえば黄色いスパイク
リオ五輪といえば黄色とピンクのスパイクです。
ほぼみんなナイキ↓
出典:IAAF
リオでは中・長距離はほぼ全員が黄色いナイキを履き、短距離でも女子100mでは決勝8人中6人がナイキの黄色いスパイクでした。
ボルトと日本人選手以外はほぼナイキという状況の大会がリオ五輪でした。
っていうか、ユニフォームすらほぼナイキです。
リオのナイキフィーバーを知っていれば、箱根駅伝のナイキ率にはそれほど驚くことはないはず。ナイキがこれだけ突然シェアを採るのは、シューズ自体がどうこうという面よりもナイキの資金力によるものでしょう。
ナイキは宣伝が上手
ナイキと言えばタイガーウッズですが、タイガーと契約するまでナイキはゴルフ用品なんて作っていなかったそうです。にもかかわらず、タイガーウッズのおかげで一気にゴルフ用品メーカーとしても名をはせるようにになったと。
あんまりやる気がなかったからか、最近ゴルフからは撤退しましたが、ナイキがゴルフの一時代を築いたのは間違いないでしょう。
結局、道具なんてのはメーカーが金をかけて宣伝するかどうかで世間の評価も変わります。良い選手が使っている道具は良い商品で、そのための契約選手です。
すったもんだもエンターテイメント
ヴェイパ―が規制されようが、もっと反発の強いシューズが他のメーカーから出てこようが、市民生活には何の影響もありません。
禁止されたせいで代表候補の選手がしくじっても他の選手が代表になるのでそれはそれでドラマです。
しょうじきなところ、どうでもいい。
ディスカッション
コメント一覧
自分はどうでもよくないです!
なぜなら
アシックスのピンレススパイクをはじめとした
新しい発想、今までにない性能の商品が出ると
やっぱり興味はでますしワクワクすると思うんですよ。
今回のヴェイパーフライシリーズのテクノロジーって今後は短中距離のスパイクにも流用される予定ですし、
陸上アイテム全体の開発競争に火がついてる状態で、こういう規制という形で水を差されて、面白くない商品しか出なくなるのは結構嫌なのです。
今後数十年もずーっとサイバーブレードとかソーティと付き合っていかないといけないと思うとつまらないでしょう?(笑)
ヴェイパ―が規制されようとされまいと、ミズノとアシックスは10年後も今とおなじラインナップな気がします笑
今回は規制する根拠もあんまりない気はしますが、現状のレギュレーションだとなんでもありで今後どこかの素材メーカーが本気出したらまた今回のようなことが起こるでしょうから、先手を打って何かしら規制をする可能性はありますね。
でもヴェイパーが出てこなかったら、メタレーサーもミズノのプロトタイプも開発されることはなかったでしょう?ヴェイパーが禁止云々よりも、今回の規制の影響でメーカーの開発意欲が失われるかもしれないのが、消費者の立場としてはあまり嬉しくないという感想です。
ちなみにヴェイパーは自分も所有してますが、確かにあれは助力になりますね。垂直跳びでも10センチ以上アップします、なのでドーピングと言われるのも理解できます。
ただ、短距離スパイクと比較(ズームスーパーフライ)した時に反発力そのものは、主観ですが、そんなに変わらないと感じました。むしろヤバいのは、反発力の負荷がまったく筋肉にかからないように感じるところですね。バウンディングで比較すれば分かりやすいと思います。なのでヴェイパーフライはマラソン用にチューンナップすることに成功した短距離スパイクという認識です。
よって昨今のロードでの記録更新ラッシュは、短距離で例えると、今までアップシューズで走ってきた記録が短距離スパイクによって更新されてるという状態だと分かりやすいと思います。
ではヴェイパーは禁止できるのかというと、
短距離スパイクの存在を認めてしまってる以上、陸上競技のあり方や記録を守る等の理由で陸連が禁止することはできないと思います。
そして、ルール上の“不公平になるような助力、利益”には当たらない、なぜならレーザーレーサーと違って市販品であって誰でも入手可能だから。
よって、ネクスト%の禁止はできないと
じゃあ規制は入らないかというと、やっぱり何かしらの対策必要だと思うので、
ー市販品のみ使用可能(プロトタイプの実戦使用禁止)
ープレートはスパイクと同じく1枚のみ使用可能
だとみなさんも納得できるのでは?
アルファフライは当然禁止になると思いますが
長文、失礼しました(笑)
おっしゃる通りで、メーカーによって温度差があるものの現状の競争が正常だと思います。規制が入ってメーカーの開発が止まるのであれば困ったものです。今更頑張ったところでミズノ・アシックスが対抗できるようには思えないのもナイキのすごさ。
陸上ってトップ選手はみんな特注品なので、世界大会でどんなプロトタイプが出て来るのかってのが楽しみのひとつでもありますしね。特にミズノ・アシックスは世界大会で選手達が履いているスパイクと市販品が似て非なるもので、そういう意味ではヴェイパーはトップ選手用と市販品が同じなのでむしろ公平性は高いようにも思えます。
プロトタイプが使えなくなって困るのはナイキ以外のメーカーでしょうから、そう考えると今回の騒動はナイキの自作自演かも!?
ヴェイパー一度は履いてみたいなぁと思いながらも恐らく私は一生履くことはないんでしょう…8、000円くらいになったら買ってみます笑
ヴェイパーははいて走るだけでもほんとに楽しいです。
ヴェイパーは高くてもズームフライは安くなってるので、ズームフライでも全然楽しめますよ?
ズームフライでバウンディングの練習、新しい感覚すぎてすごい面白いです。ぜひおすすめします。
そんな自分は脚をあえて鍛えるために、薄底のアップシューズを探してるところですが笑
ナイキのシューズになかなか手が出せないで5年くらいたってしまいました…
今のシューズがヘタったら次こそはナイキいってみようかなぁ