【世陸東京】出場資格を解説!標準記録、世界ランク、ワイルドカードの3つのルート
世界陸上競技選手権(世陸東京)が2025年9月13日(土)~9月21日(日)に東京の国立競技場で開催されます。
オリンピックと並ぶ2年に一度のこの世界大会で好成績を残すことは、特にプロ選手にとって重要な意味を持ちます。
当然ながら、世界の頂点を争うトップアスリートたちが集結するわけですが、彼らは一体どのようにしてこの夢の舞台への切符を手に入れるのでしょうか…?
ってことで今回は
【世陸東京】出場資格を得るための3つのルート
をテーマにご紹介。
世界陸上東京大会に出場するには、(1) 大会が定める出場資格を満たすこと、そして(2) 各国の代表選手に選ばれるという2つの段階をクリアする必要があります。重要なのは、各国でトップの成績を収めた選手であっても、まず世界陸連が定める出場資格を満たしていなければ、世界陸上の舞台には立てないということです。
そんなわけで今回は(1)の出場資格について詳しくご紹介していきます。(2)については日本代表の選考に焦点を当てて、また別記事で詳しくやろうと思います。
【世界陸上東京2025】出場資格を得るための3つのルート
『参加標準記録の突破』or『世界ランキング上位に入る』or『ワイルドカード』
世界陸上東京大会の直接的な出場資格は3パターンで与えられます。
- 参加標準(エントリースタンダード)を突破する
- WAランキングで「ターゲットナンバー(出場枠)」圏内に入る
- ワイルドカード
世界陸上には各種目ごとに『参加標準記録』と、『ターゲットナンバー(出場枠)』が設定されています。各種目のターゲットナンバーは以下の通りです。
男子 参加標準 |
種目 | TG | 女子 参加標準 |
10.00 | 100m | 48 | 11.07 |
20.16 | 200m | 48 | 22.57 |
44.85 | 400m | 48 | 50.75 |
1:44.50 | 800m | 56 | 1:59.00 |
3:33.00 (3:50.00) |
1500m (1マイル) |
56 | 4:01.50 (4:19.90) |
13:01.00 13:01 |
5000m 5kmロード |
27 | 14:50.00 14:50 |
27:00.00 27:00 |
10000m 10kmロード |
27 | 30:20.00 30.20 |
13.27 | 110mH/100mH | 40 | 12.73 |
48.50 | 400m | 40 | 54.65 |
8:15.00 | 3000mSC | 36 | 9:18.00 |
2.33 | 走高跳 | 36 | 1.97 |
5.82 | 棒高跳 | 36 | 4.73 |
8.27 | 走幅跳 | 36 | 6.86 |
17.22 | 三段跳 | 36 | 14.55 |
21.50 | 砲丸投 | 36 | 18.80 |
67.50 | 円盤投 | 36 | 64.50 |
78.20 | ハンマー投 | 36 | 74.00 |
85.50 | やり投 | 36 | 64.00 |
8550 | 十種/七種 | 24 | 6500 |
2:06:30 | マラソン | 100 | 2:23:30 |
1:19:20 | 20km競歩 | 50 | 1:29:00 |
2:28:00 | 35km競歩 | 50 | 2:48:00 |
世界R上位14か国 +WAランク2か国 |
リレー | 世界R上位14か国 +WAランク2か国 |
例えば、100mであればターゲットナンバーが48です。
これは世界のトップ48名だけが出場できるということなのですが、じゃあ、この48名を決める基準は?っていうのが2つの条件『参加標準』と『WAランキング』なわけです。ちなみにWAは世界陸連(World Athletics)の略です。
ややこしいのですが、シンプルに考えると…
- 参加標準を突破した→その時点で出場資格ゲット!
- 参加標準を突破できなかった→締め切り時点でWAランキングがターゲットナンバー圏内なら出場資格ゲット!
こう考えておけばOKです。
ただし…
世界陸上に出場できるのは、原則として各国各種目3名までというルールがあります。(ワイルドカードがある場合は4名)
そのため、その国で標準記録を突破したり、ランキングでターゲットナンバー圏内に入った選手が3名を超えた場合、国内で選考会が行われ、たとえ出場資格を満たしていても代表に選ばれない可能性があるのです。この国内選考の方法については、後ほど【日本代表の選出方法】の項目で詳しくご説明いたしましょう。
①参加標準記録を突破する
まずはわかりやすいパターン。世界陸連が設定する『参加標準記録』を期間内に突破することで出場資格を得られます。
標準記録は各種目ごとに設定されていて(例えば男子100mであれば10秒00)、この記録を期間内に1回でも上回ることができればその時点で出場資格ゲット。あとは国内選考を通過すれば代表として世界陸上に出場できます。
有効期間
・10000m、混成競技、リレー:2024年2月24日~2025年8月24日
・その他の種目:2024年8月1日~2025年8月24日
参加標準記録による出場資格はシンプルでわかりやすい仕組みです。しかし、この標準記録は、各種目の出場枠のおよそ50%を埋めることを想定して設定されており、突破するには各国トップレベルの、世界陸上の準決勝で上位を争う程度の高い実力が求められます。
トップレベルの選手にとっては、標準記録をクリアすることで比較的早期に代表入りがほぼ確実となり、本大会に向けてじっくりと準備できるというメリットがあります。しかし、多くの選手にとって、この標準記録の突破は非常に高い壁です。
そのため、「参加標準記録を突破する選手が現れるかどうか」は、世界陸上への出場権争いを見る上での大きな注目ポイントとなります。
②WAランキングで出場権獲得 – ターゲットナンバーと複雑な仕組み
エントリースタンダードを突破していなくても、WAランキングにおいてターゲットナンバー圏内に入れば世陸への出場権を得ることができます。しかし…このランキングの仕組みが少し複雑で標準突破と比べるとかなりややこしいんです。
一般的な『世界ランキング』っていうと、そのシーズンのベスト記録をリスト化したものを指します。
しかし、『WAランキング』は記録だけでなく、大会の格や順位によって得られるポイントを合算して決まります。
大会の格は以下のように分けられています。
OW→オリンピック
DF→ダイヤモンドリーグファイナル
GW→ダイヤモンドリーグ
A→コンチネンタルツアーゴールド(大規模な国際大会)
B→コンチネンタルツアーシルバー(国内選手権等)
C→コンチネンタルツアーブロンズ(地域レベルの国際大会や国内の主要な大会)
D→コンチネンタルツアーチャレンジャー(国内のグランプリシリーズ等)
E→国内競技会など
F→各国国内のWAランキング対象公認競技会
格が高い大会ほどポイントへの影響は大きいため、大きな大会に積極的に出場することで、同じ記録を持つ選手よりもランキング上位に入れる可能性が高くなります。
また、順位が高いほどポイントが加算されるため、同じ10秒10の記録を出しても、格上の大会で上位の方が格下の大会で下位の場合よりもポイントが高くなります。
ポイントの出し方は次の項でご紹介しますが、記録をポイントに換算して5試合の平均ポイントで…っとなると単純な記録のランキングと違って1ptや2ptの微妙な差がすぐにわからないことがあります。一応計算はできるのですが、果たしてその計算が合っているのかは正式なランキングが出ないとわからないんです。
こような複雑なランキングが導入されたのにはちょっと事情があります。
以前は、世界陸上の出場権は標準記録を突破した選手のみに与えられていました。しかし、一部の大会で不自然なほど良い記録が出るケースがあり、「不正に標準記録を突破しているのではないか?」という疑念が生じたのです。
そこで、不正を防ぐために、異なる5つの大会での記録と順位をポイントに換算し、その合計でランキングを決めるという方法が導入されました。
WAランキングの仕組み:記録と大会格によるポイント制
WAランキングをザックリと説明すると、記録と大会規模をポイントに換算したランキングシステムです。
ポイントは単純な記録だけではなくて、記録と順位を合算したパフォーマンススコアがその試合でのポイントとなります。
①記録スコア+②順位スコア=③パフォーマンススコア
選手は世界を転戦することでこの③のスコアを集めていくわけです。
そしてWAランキングの算出は③の合算となります。
③パフォーマンススコアの上位5つの平均=④その選手のポイント
こうしてポイントが集計され、④のポイントをランキングにしたものがWAランキングとなります。
スコアの計算はかなり複雑で…
①→記録と風力をポイントに換算
②→大会規模と順位をポイントに換算
大きな大会ほど獲得できるポイントに高い係数が乗じられます。また、風の状況も考慮され、追風の記録よりも向風の記録の方がより高いポイントが得られます。
WAランキングのポイントシステムは複雑ではありますが、その設計は非常に緻密で、公正なランク付けを目指した仕組みとなっています。ランキングに反映されるためには、最低でも5試合の記録が必要とされており、たとえ小規模な大会で不正な行為があったとしても、獲得できるポイントが低く抑えられるため、ランキングへの影響は限定的です。このような仕組みがあるおかげで、ゴールドラベルという高ポイントが得られるゴールデングランプリに有力選手が積極的にエントリーする要因の一つにもなっています。
③ワイルドカード – 前回王者とダイヤモンドリーグファイナル優勝者
世界陸上東京大会では「Automatic entry(自動エントリー)」の資格としてワイルドカードが2種類設定されています。
- 前回大会(ブダペスト2023)の優勝者
- 2024ダイヤモンドリーグファイナルの優勝者
上記に該当する選手は、参加標準記録を満たしていなくても自動的にその種目で世界陸上への出場資格を得ることができます。ワイルドカードによる出場は、各国に与えられた通常の出場枠(3名)とは別枠となるため、最大4名の代表を出すことができます。
日本からは、女子やり投の北口榛花選手がこの資格で東京大会の代表に内定しています。
種目 | 性別 | 前回世界陸上2023 優勝者 |
DLファイナル
2024 優勝者 |
100m | 男子 | ノア・ライルズ (アメリカ) |
アキーム・ブレイク
(ジャマイカ) |
女子 | シャカリ・リチャードソン (アメリカ) |
ジュリアン・アルフレッド
(セントルシア) |
|
200m | 男子 | ノア・ライルズ (アメリカ) |
ケニー・ベドナレク
(アメリカ) |
女子 | シェリカ・ジャクソン (ジャマイカ) |
ブリタニー・ブラウン
(アメリカ) |
|
400m | 男子 | アントニオ・ワトソン (ジャマイカ) |
チャールズ・ドブソン
(イギリス) |
女子 | マラレイディ・パウリノ (ドミニカ共和国) |
マラレイディ・パウリノ
(ドミニカ共和国) |
|
800m | 男子 | マルコ・アロップ (カナダ) |
エマニュエル・ワニョンイ
(ケニア) |
女子 | メアリー・モラ (ケニア) |
メアリー・モラ
(ケニア) |
|
1500m | 男子 | ジョシュ・カー (イギリス) |
ヤコブ・インゲブリグセン
(ノルウェー) |
女子 | フェイス・キピエゴン (ケニア) |
フェイス・キピエゴン
(ケニア) |
|
5000m | 男子 | ヤコブ・インゲブリグセン (ノルウェー) |
ベリフ・アレガウィ
(エチオピア) |
女子 | フェイス・キピエゴン (ケニア) |
ベアトリス・チェベト
(ケニア) |
|
10000m | 男子 | ジョシュア・チェプテゲイ (ウガンダ) |
– |
女子 | グダフ・ツェガイ (エチオピア) |
– | |
マラソン | 男子 | ビクター・キプランガト (ウガンダ) |
– |
女子 | アマヌエル・シャングー (エチオピア) |
– | |
ハードル | 男子 | グラント・ホロウェイ (アメリカ) |
シュアブ・ジョヤ
(フランス) |
女子 | ダニエル・ウィリアムズ (ジャマイカ) |
ジャスミン・カマチョクイン
(プエルトリコ) |
|
400mハードル | 男子 | カルステン・ワーホルム (ノルウェー) |
アリソン・ドス・サントス
(ブラジル) |
女子 | フェミケ・ボル (オランダ) |
フェミケ・ボル
(オランダ) |
|
3000mSC | 男子 | スーフィアン・エル・バカリ (モロッコ) |
エイモス・セレム
(ケニア) |
女子 | ウィンフレッド・ヤヴィ (バーレーン) |
フェイス・チェロティッチ
(ケニア) |
|
走高跳 | 男子 | ジャンマルコ・タンベリ (イタリア) |
ジャンマルコ・タンベリ
(イタリア) |
女子 | ヤロスラワ・マフチフ (ウクライナ) |
ヤロスラワ・マフチフ (ウクライナ) |
|
棒高跳 | 男子 | アーマンド・デュプランティス (スウェーデン) |
アーマンド・デュプランティス
(スウェーデン) |
女子 | ケイティ・ムーン (アメリカ) ニナ・ケネディ (オーストラリア) |
ニナ・ケネディ
(オーストラリア) |
|
走幅跳 | 男子 | ミルティアディス・テントグルー (ギリシャ) |
テジャー・ゲイル
(ジャマイカ) |
女子 | イバナ・ヴレタ・シュパノビッチ (セルビア) |
ラリサ・イアピキノ
(イタリア) |
|
三段跳 | 男子 | ファブリス・ザンゴ (ブルキナファソ) |
ペドロ・ピチャルド
(ポルトガル) |
女子 | ユリマル・ロハス (ベネズエラ) |
レヤニス・ペレス (キューバ)
|
|
砲丸投 | 男子 | ライアン・クルーザー (アメリカ) |
ライアン・クルーザー
(アメリカ) |
女子 | チェイス・イーリー(ジャクソン) (アメリカ) |
レオナルド・ファブリ
(イタリア) |
|
円盤投 | 男子 | ダニエル・スタール (スウェーデン) |
マシュー・デニー
(オーストラリア) |
女子 | ライサ・タウサガ (アメリカ) |
ヴァラ―リー・オールマン
(アメリカ) |
|
ハンマー投 | 男子 | イーサン・カッツバーグ (カナダ) |
–
|
女子 | カムリン・ロジャーズ (カナダ) |
–
|
|
やり投 | 男子 | ニーラジ・チョプラ (インド) |
アンダーソン・ピーターズ
(グレナダ) |
女子 | 北口榛花 (日本) |
北口榛花 (日本) |
|
混成 | 男子 | ピアース・ルパージュ (カナダ) |
– |
女子 | カタリナ・ジョンソン=トンプソン (イギリス) |
– | |
競歩 20km/50km |
男子 | アルバロ・マルティン (スペイン) |
– |
女子 | マリア・ペレス (スペイン) |
– | |
マラソン | 男子 | ビクター・キプランガト (ウガンダ) |
– |
女子 | アマネ・ベリソ・シャンクル (エチオピア) |
– | |
まさかの全部手調べなので間違ってたら教えて下さい。 |
ここで気になるのが、200mではライルズとベドナレクはどちらがワイルドカードで出場になるの?ってところ。
これについて、要綱には「もし両方(前回世界陸上の優勝者とダイヤモンドリーグファイナルの優勝者)が同じ国出身の場合、そのうちの1名のみがこのワイルドカードでエントリーできます。」という記載があるため、ライルズとベドナレクのうちワイルドカードによって出場できるのはどちらか1名だけということになります。
現時点では、アメリカ陸連がどちらをワイルドカードで出場させるかは決まっていないようです。全米選手権を待ちましょう。
まとめ:【世陸東京】出場資格を掴むために
今回の記事では、2025年世界陸上東京大会への出場資格を得るための3つパターン、
- 参加標準記録の突破
- WAランキングでターゲットナンバー圏内に入る
- ワイルドカード(前回世界陸上優勝またはダイヤモンドリーグファイナル優勝)
についてご紹介しました。
世界トップレベルの選手が集う世界陸上に出場するためには、いずれのルートも容易ではありません。標準記録の突破は、世界大会の準決勝以上で戦える実力を示す明確な基準となります。WAランキングは、一貫した高いパフォーマンスと戦略的な大会選択をしたことを証明するものです。
特にWAランキングによる出場を目指す場合は、各種目に設定されたターゲットナンバー(出場枠)に入ることが重要となります。世界ランキングは記録だけでなく、大会の格や順位によって変動する複雑なシステムであり、戦略的なレース選択と継続的な高パフォーマンスが求められます。
また、ワイルドカードはごく限られたトップ選手のみに与えられる特別な資格です。前回大会の覇者やダイヤモンドリーグファイナルの優勝者に与えられるもので、各国で複数の資格保持者がいる場合には、出場できるのは1名のみというルールも重要です。アメリカの男子200mのように、有力選手が複数ワイルドカードの資格を持つケースでは、今後の選考に注目しましょう!
出場資格を得たとしても、各国・地域の代表に選ばれなければ世界陸上の舞台に立つことはできません。
次回は、日本代表がどのように選考されるのか、その詳細をご紹介していきます。
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