<幅跳びのポイント>第4回:高さと速さを天秤にかけてみる編

幅跳びのポイント

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幅跳びシリーズの第4回。
前回は6mを跳ぶために必要な100mのタイムを調べました。


物理的には12秒38~12秒98で走れば6mを跳べる計算です

20度の跳び出しであれば12秒38、25度の跳び出しであれば12秒98のスピードがあれば6mを跳ぶことが出来るというわけです。
スピードも大事ではあるものの、跳躍の距離には跳び出しの角度、つまり跳躍の高さが大切というのが前回の結論でした。

しかし高さが大切とはいうものの、踏み切りでの減速はご法度のはず。
今回は
高い跳躍をするためなら減速してもいいのか?
について調べてみました。

 

 

走り幅跳び、高く跳ぶか?速く跳ぶか?

前回、速く走るよりも高く跳んだほうが記録が良いということがわかった。しかし、遅くなると跳べなくなるのもまた事実。高く跳ぼうとすれば必ず『踏み切りでの減速』という問題が出てきます。
多くの選手は減速を押さえるためにできるだけスムーズに踏み切ろうと意識するため、どうしても跳躍は低くなりがちです。かといって高さを出そうとすれば減速してしまい、それはそれで悪い跳躍になってしまいます。
ここでは、『高く跳び出す』『速く跳び出す』を天秤にかけて、高く跳ぶメリットを生かすにはどれくらいの減速まで許容できるのかを考えてみます。

ここでも前回同様、100mのタイムとスピードについては換算式を用いて計算しています。その式は『ある速度で110mを等速で走った場合のタイムが100mの記録とだいたい一致する。ある速度は100mの最大疾走速度とだいたい一致する。また、踏み切りの速度は疾走速度の90%とする。』というものだ。
10m/sのスピードで110mを等速移動すると11秒00だが、100mを11秒00で走れる人の疾走速度は10m/sだと推定出来る。その人の跳び出しの速さは9m/sとなる。
ここではこの換算式を前提として考えているが、これは細かく考えたものではないので穴があると思う。厳密には間違っていても感覚的にはそんなにズレていない気がするので採用した。

高く跳ぶか速く跳ぶかというジレンマ


高く跳び出そうとすれば跳び出しのスピードは落ちる。
速く跳び出そうとすれば跳び出しの角度は低くなる。

この2つのバランスをどうとるのかが幅跳び選手の腕の見せ所でしょう。
得意なものを伸ばしていくのか、苦手を克服していくのかと言い換えてもいいでしょう。
『遅いのに跳べる選手』『低いけど跳べる選手』のどちらに自分がなりたいのかを考えて、高さ速さを天秤にかけると良いと思います。6m台レベルであればどちらが正解と言うこともないと思います。

 

 

 

減速はどの程度まで許容されるのか?

高く跳ぼうとして減速するのは本末転倒。
ブレーキがかかるくらいなら低く跳び出した方が良い。
こういう話はよく耳にします。
でも本当にそうでしょうか?
7mを目指す10秒台の選手が高く跳ぼうとして12秒台のスピードまで減速してしまっていれば、それはダメ。でもそんな極端な事は起こらないはずです。
『ブレーキをかけてでも高く跳んだほうがいいといい』という減速の限度はどの程度なのかについて考えてみます。

前回のグラフをもう一度見てみましょう。

赤い線が高く踏み切った場合(25度)。
青い線が低く踏み切った場合(20度)。
このグラフからわかることは同じスピードであれば高く跳び出した方が50cmくらい記録が良いということ。
跳び出しの角度が5度高ければ0.5秒くらい遅くても同じ距離が跳べるとも言えます。
つまり
5度高く跳び出せるなら0.5秒分スピードを落としても大丈夫

犠牲に出来る速さは0.5秒分が限度だ!!

無駄に長くなるのでこの項の結論を先に言う。
高く跳ぶために犠牲にしていいスピードの限度は100mに換算して0.5秒分だ!!

どうして0.5秒が限度なのか、どう計算してそう言えるのかを紹介しよう。

まず、わかりやすく12秒0で走るとして計算をしてみる。ちなみに12秒0で走れれば幅跳では6m00~70cmくらい跳ぶことが物理的には可能だ。
そして12秒0の選手の跳躍距離について考えてみる。

~計算~
12秒0で走る場合の疾走速度は9.18m/s。跳び出しの速さはその90%なので、8.17m/sとなる。
8.17m/sの跳び出しの速さで跳べる距離は、20度で跳び出した場合は6m13。25度で跳び出した場合は6m71である。
次に、12秒5で走る場合の疾走速度は8.8m/s。跳び出しの速さはその90%なので、7.92m/sとなる。
7.92
m/sの跳び出しの速さで跳べる距離は、20度で跳び出した場合は5m84。25度で跳び出した場合は6m38である。

~わかること~
12秒0の選手の跳躍距離は6m13~71で、その中間は6m42である。
12秒5の選手の跳躍距離は5m84~6m38で、そ
の中間は6m11である。
技術があるほど高く跳び出せるとすれば、技術のない
12秒0が低く踏み切った場合の距離は6m13で、ある程度の技術がある12秒5が高く踏み切った時の6m11とほぼ同じ記録である。


考察

12秒0が6m11を跳ぶ場合は低い跳躍(20度)であるため、スピードだけで跳んでいる状態、つまり技術がない跳躍であり、12秒0の走力があれば技術がなくても6mを跳べると言える。
6m13は12秒5が物理的に跳べる距離の中間であるため、12秒5の走力でこの距離を跳ぶためにはある程度の技術が必要だと言える。
12秒0と12秒5の選手を考えた場合には、『スピードがあるが技術はない選手』と、『スピードはないがある程度の技術がある選手』はどちらも6m10程度のベスト記録をもつ同じレベルの選手だと言える。

6m11を跳べる『スピードがあるが技術はない選手』(12秒0)が技術を使った跳躍をしようとして、ある程度の技術を使おうとすれば必ず減速してしまう。持ち味であるスピードを殺して高い跳躍をした場合に、もともとの6m11を下回ってしまっては本末転倒である。
6m11から記録を落とさずに高い跳躍をするには、見た目には『スピードはないがある程度の技術がある選手』と同程度の跳躍をする必要がある。
12秒0の選手が高い跳躍をすれば、12秒5のスピードまで減速したとしても、もともとと同程度の6m13を跳ぶことが出来る。
12秒0が高い跳躍をしても12秒5のスピードよりも速く跳び出すことが出来れば、スピードを殺してでも高さを出す方が有利になる。
『高い跳躍をするために減速してもいい限度は0.5秒分』だと言える。

つまり、100mで0.5秒分遅くなる程度の減速であれば、高い跳躍をした方がメリットはある

どうだ!!
当たり前のことをここまで長く書けたことに驚く。

 

 

自分の跳躍の欠点はスピードじゃないかも?

100mで0.5秒分遅くなる程度の減速ってのはどのくらいの減速だろうか。
そのスピードは0.25m/sだ。時速にするとわずか1km/hだ。そんなもん調整できるだろうか?たぶんできない。
動画にとって計算したりする方法もあるとは思うが、スピードについては結局のところは感覚に頼ることになると思う。

実力を角度で算出する

幅跳びの記録は、結局はスピードと跳び出しの角度で決まる。
スピード型の選手は角度が低く、技術型の選手はスピードが低い。スピードを出しながらも高く跳べる選手が実力のある選手だと言える。
スピードは簡単に計ることができないので、実力を算出するうえでポイントになるのは角度だろう。スピードは角度と記録から逆算することができる。

ある選手が25度で踏み切ったのに6m10しか跳べていなければ、スピードは12秒5の7.92m/s程度だったと逆算可能だ。
6m10の記録をもつ選手だとして、
100mが12秒0の選手であれば、減速しすぎているのでもっと伸び代がある。
100mで12秒3の選手であれば、減速が少なく良い跳躍をしていると言えるので伸び代はあまりない。
同じ記録だったとしても、伸び代がある選手は跳躍のレベルが低く、伸び代がない選手は跳躍のレベルが高いと言える。

こんな感じで、跳躍角度から自分の跳躍のレベルが分かる。
記録の良し悪しだけでレベルを測ってしまうと跳躍の悪い点を見逃してしまう可能性があるが、記録と跳躍角度から跳躍のレベルを算出すれば自分の跳躍に足りない部分、つまりスピードを維持できていないのか、跳躍が潰れてしまっているのか、それともスピードも跳躍技術も十分なのかが分かるはずだ。

 

ってことで、スピードと跳躍角度が幅跳びのポイントで、高さと速さを比較して、0.5秒分(時速1キロ)より減速してしまっているようだと減速しすぎ、0.5秒分よりも減速しないのであれば高さを出した方が有利というお話でした。
多くの選手は『自分の跳躍にはスピードがない』と言います。しかし、本当に自分の跳躍に足りないのはスピードなのか?スピードは十分なのに高さが足りないんじゃないのか?
自分のウィークポイントを正確に把握する為にも、角度について考えてみると殻が破れるかもしれません…

 

余談…

幅跳のスパイクって結構メーカーによって跳躍角度やスピードが変わってくるように思う。
スパイクの紹介は別記事でやってます…


個人的には海外スパイクはスピード重視、国産スパイクは角度重視な感じがします。

特にミズノのフィールドジオ

これは強烈なブレーキで体が投げ出されるような感覚。これはやっぱり減速してでも高く跳ぶことを重視した設計になっているのでしょう。
レビューはこちら

逆にアディダスのアディゼロLJはとにかくスピードが出るように設計されている感じ。減速を押さえることはもちろん、助走スピードもスプリントのスピードに近いところまで持っていける感覚。

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自分に合ったスパイクっていうのが、欠点を補ってくれるスパイクなのか、それとも長所を伸ばしてくれるスパイクなのか、それもまた難しいところです。






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