<スプリントのポイント>①腕振りをマスターすれば速く走れる編

スプリントのポイント

速く走ることは容易ではありません。しかし、ポイントをしっかり押さえればそれなりに速く走ることはできます。
今回からシリーズとして、速く走るためのスプリントのポイントを解説していこうかと思います。

今回は第1回目として、腕ふりにスポットを当てます。
①腕振りをマスターすれば速く走れる編
速く走るための腕の振り方をご紹介。
そこそこのレベルでも腕振りはなんとなくでやっているという選手も多くいるし、トップレベルでもそれぞれ違った腕の振り方をしていることから、いまいちわかりにくい腕ふり。
しかし、どんな振り方に見えても速い人達はちゃんとポイントを押さえた腕ふりをしているのです。

 

 

腕振りはスプリントに必要不可欠!!

まずは腕振りがなぜ必要なのかについて知る必要があります。ただ振ればいいというものではないのです。

腕振りの役割は2つ!!

速く走るためには腕を振って走る必要があります。それはなぜか?
腕振りには速く走るためにかかせない2つの役割があるのです!!

①地面に大きな力を加える!!

良い腕振りというのは、力が地面に伝わる腕ふりです!!
速く走るということは地面に大きな力を加えて、その反発力をロスなく体に伝えるということです。
地面に力を加えるのは脚ですが、走るという動作は、重力や慣性の力をつかって瞬間的に自分のパワー以上の力を地面に伝える動作なのです。足がはやい人はこの力の使い方がうまい人。
で、これに重要な役割を果たしている要素が腕振りなのです。
これが腕振りの役割のひとつ目。ザックリ言えば、腕が振れないと十分なパワーが出ないということ。

走る理屈は以下の通り。
①静止状態では体重60Kgの人が地面に伝えている力は60Kgで、地面から返ってきている力も60Kgです。
②地面に瞬間的に100Kgの力を加えると、100Kgの反発力が返ってきます。
③そうすると体は40Kgの力で宙に投げ出されます。

上の絵でいう40Kg分の力が走るスピードになるわけです。実際には腕ふりで40Kgの力を出すことは不可能ですが、タイミングよく腕を振ることで瞬間的に大きな力を地面に伝えます。
理屈としては、ブランコを漕ぐのと一緒。タイミング良く漕げばグイっと加速してくれます。腕ふりがうまい人はブランコをこぐのがうまく、腕ふりが下手な人はブランコをこぐのが下手だとイメージすると簡単です
腕がうまく使えれば、お尻で座った状態であっても腕を振るだけで体を浮かすことができます。

②足の回転をサポートする!!

走る時には左右の足が順番に前後移動をします。で、この回転が速い人が足の速いひとです。
この足の回転を補助するというのが腕ふりのもう一つの役割です。
もし腕を振らずに走った場合、たとえば腕を後ろ手に組んで走ってみたりするとわかると思いますが、体が左右に大きくブレます。このブレを腕を振ることで打ち消し、ロスのないスプリント動作をつくるのです。
腕ふりは脚の動きと連動することになるので、ピッチが速くなれば腕ふりも速くなり、ストライドを伸ばせば腕ふりも大きくなります。

実例としてはサニブラウン選手のフォームがわかりやすいと思います。ストライドの大きな走りが特徴のサニブラウン選手は、顎が上がって肩が下がって腕を振っているように見えます。このフォーム、400mHの為末さんも同じような感じでした。これはストライドを伸ばすために腕を大きく振っているためで、結果として顎が上がって見えているのです。
大きなストライドが強要される400mHではこういうフォームの選手が結構います。
逆に、マイケルジョンソンのようにピッチが速い選手は腕ふりもコンパクトになります。

ある程度のレベルになると脚主導ではなく腕主導での動作意識が必要になってきます。『胸から脚が生えている感覚』といったような感覚で走る選手が増えるのもこのためです。
決勝や後半の競り合いで失速するのは、緊張で腕ふりのタイミングがずれてしまい足の回転を補助できなくなることも要因です。

ジョギングの腕振りとスプリントの腕振りは違う

ジョギングあるいはランニングとスプリントではスピードが全然違います。そうなると当然腕振りも変わるべきです。
しかし、ジョギングの動作のままスピードを上げてしまい、それを自分のスプリントだと思っている人も少なからずいるのです。ジョギング動作をどんなに早くしていったところで速く走ることはできません。
スプリントの腕ふりとジョギングの腕振りは別物です。ここの違いが感覚的にわかっているかどうかは、生まれつき足が速いか遅いかと直結している気もします。速く走りたいのであれば『ジョギング・ランニングの動作』と『スプリント・ダッシュの動作』は違うということを意識しましょう。

スプリントは反発で走る!!

スプリントとジョギングの明確な違いはなにかといえば、『反発を使うかどうか』です。
ジョギングでは自分の筋力で体を運ぶのに対して、スプリントでは地面からの反発で体を運びます。つまり、スプリントの腕振りは反発を生みだすための腕振り』である必要があります。
足の遅い人に見られるのは肘から先だけをブンブン振る動き。この腕を回すような動きはサッカーや野球の選手にも多く、これは反発ではなく足の力を使って走る動きです。本人は頑張って腕を振っているのですが、肘から先をどれだけがんばってブンブン振っても地面に伝わる力は増えません。
反発をもらうための腕振りは鎖骨の付け根や肩を稼働させる意識で、肘から先は体幹の動きに引っ張られて勝手に動くくらいの感覚のほうがいいと思います。

ロスのない腕振りが必要

マラソンなどと違ってスプリントではたった1歩の失敗であっても致命的なロスになります。腕振りもちょっとタイミングがずれるとそれだけで反発が減って大きくタイムに影響します。スプリントの腕振りでは、できるだけロスのない動きをする必要があります。
『正確なタイミングで正しい方向に力強く振る腕振り』がスプリントでは求められます。

スタートでは力を使う腕振りになる

スプリントでは反発を使って走りますが、それは加速期以降の中間疾走といわれる走りについてです。スタートでは自分の力を使ってスピードを上げていく必要があります。この場面では腕振りも力を生みだすための動きが必要です。
具体的には『パンチング』といわれるような腕振りがこの動きです。
パンチングとは、スタートから数歩とくに1歩目の腕ふりでは頭の上にあるミットを思いっきりパンチする感覚で腕を振るスタート方法です。

この絵は陸上の基礎・基本として前に紹介したものです。

前側の腕は頭の真横くらいまで振りだされますが、このときの振りだしをパンチする感覚にすることでうまく力を出すというもの。この腕ふりをすることで、背筋を使って体をグーンと伸ばすスタート姿勢がとれます。

腕は振らなくてもいい?

2003年の世陸パリの200mで銅メダルを獲得した末續さんをはじめ、腕を振らない感覚で走っているという選手が結構います。かつてはナンバ走りとも言われていました。ただ、こういう感覚で走っていても実際にはちゃんと腕を振っています。
腕を振らない感覚というのは、腕を腕ではなく体幹の力を使って振っているというものです。陸上では体幹主導の動きが良いとされ、腕や足先といった末端は体幹の動きに引っ張られて動くという理論があります。とはいえ、腕を振らない感覚であっても、腕の力を使わないということではありません。
レベルが上がれば最終的には腕振りを意識しない動きに行きのかもしれませんが、100m11秒台くらいのレベルであれば、しっかりと腕を振り、それを徐々に感覚に落とし込んでいくほうがいいでしょう。
感覚はどうあれ、使える力は全部使わなければ人より速く走ることはできません。

腕は振るっていうよりも素早く切り返すもの?

感覚的なものですが、腕を振るのではなく体の横をスッと素早く通過させるように意識している人もいます。
タイミングを極めていくと一瞬の力感だけで正確に力を伝えることができるのでこういう意識になっていくのでしょう。体幹主導でしっかり腕を振れるようになれば一瞬しか力を入れなくても大きく体が浮きます
この場合はバッバッバッと腕を切り返していくことで力強い腕振りを実現しています。

腕は体を上下させるためのもの?

腕を振るのは地面に大きな力を加えるためですので、前後ではなく上下に振れば良い気もします。体が上がりさえすれば腕は下げちゃってもいいくらい。実際、ハイジャンのダブルアームでは踏み切ったあとは両手を下げちゃってます。
この感覚では腕ふりは重心の上下運動を助けるためのもので、鎖骨や肩甲骨をしっかり意識する必要があります。腕先だけをびゅんびゅん振っただけではなんの意味もありません。腕を振ることで胸のあたりが持ち上がるような腕振りができると腕振りのパワーが増します。
ウサイン・ボルトのように上下動を起こすような腕振りは理想的なのかもしれません。

 

腕はどう振る??

反発を生みだす正確なタイミングの力強い腕振りがスプリントでは求められます。そんなこと当たり前でみんなわかっているはずです。でもこれが難しい。
これを押さえておけばバッチリっていう腕振りのポイントをご紹介。
タイミング良く、大きく、力を逃さないよう振りましょう。

タイミングが何より大事

スプリントの場合は動作が連続するため、左右の腕をリズムよく順番に振ります。この動作はシングルアームと呼ばれます。
対して、走高跳や三段跳の跳躍動作では踏切の1歩でできるだけ大きな力が必要なため、左右の腕を同時に振るダブルアームという腕振り動作になります。
この2種類の腕振りは見た目こそ全然違えど、目的は同じです。シングルアームでは力は弱いものの、タイミングを取りやすく連続した腕振りができます。ダブルアームは連続してやるには動きが大きすぎるのですが、1回の腕振りで出せるパワーは非常に大きくなります。
この腕振りのパワーをどれだけ効率的に反発力に変えられるかが、腕振りの善し悪しを決めます。
タイミングさえバッチリ合っていれば多少変な振り方であっても速く走ることができます。

ダブルアームでタイミングを習得しよう!!

ここではダブルアームに注目して、それをスプリントの動作につなげる方法をご紹介します。ブルアームを習得すると腕振りの重要性も理解できるはず
ダブルアームでは両腕を同時に振るため、腕振りの役割の一つである『足の回転を補助する』ことは全くできません。その分、もうひとつの役割である『地面に大きな力を加える』ことに特化しています。
走る動作の中では難しいので、バウンディングやヒップスでダブルアームを練習しましょう。
こんな感じ↓

最初は大きく跳ぶ必要はありませんが、この動きができるようになればタイミングはバッチリです。もし、潰れてしまう場合には腕振りのタイミングがずれているということになります。
この動画のようにリズミカルにポンポンはずむことができるようになれば、スプリント動作も短い接地の良い動きになっているはず。100本走るよりもこれを習得したほうが足が速くなることでしょう。自分の動きをビデオに撮って比べてみれば、いかに自分のタイミングがずれていたのかに気がつくことでしょう。

腕と足が同調して地面をプッシュする感覚!!

スプリントの腕振りのタイミングは、『腕と足が同調するタイミング』です。
後ろから前に腕を持ってくるとき、真下にグっとパワーが加わる瞬間があります。この瞬間と足が地面を押す瞬間を同調させることで、腕と足が同調して地面をプッシュする感覚を得ることができ、反発力で真上にポーンとはね上げられます。いわゆるバネというやつ。

 
 
 
 
 
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Bounce 💯😳

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腕と足のタイミングを同調させると↑のように浮くかのように跳ぶことができます。
ダブルアームであれば腕の力が増えるのでこのタイミングが取りやすく、バネを使った動きを習得しやすいと思います。この動きが上手だと走力がそこそこでも跳躍選手としていいところまでいけます。

とにかく大きくしっかり振ろう!!

腕振りで重要なのは、『大きく振る』ことです。
タイミングのほうが大事ですが、世界陸上なんかを見てもわかるとおり、力強い腕ふりはスプリンターとして絶対に必要なものです。
前述したように、腕と足の回転は同調します。ってことは腕振りが大きくなればストライドも伸びます。ストライドが伸びれば足も速くなります。だから腕は大きく振る必要があります。
って言われても不思議なもので多くの人は腕が大きく振れません。速く走ろうとするとどうしてもピッチをあげようとしてチョコチョコした小さな動きになってしまいがち。
とにかく速く走るために意識することは『大きな伸びのある動き』です。

鼻・耳の前まで腕を振ろう

大きな腕振りは鼻の前や耳の横まで腕を振るようにすると簡単です。もちろん大きく振ればいいというわけではないのですが、チョコチョコ振るよりはドでかく振ったほうがいいと思います。

 
 
 
 
 
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At the NCAAs @carririchardson_ sprints to 10.99 and 22.37 to become the first U20 woman ever to go sub 11 and sub 22.40💥 . (Plus she did it within 70 mins)

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↑こんな感じの腕振りが理想です。

肘は90度で手のひらは卵を握る感じ?

腕を大きく振ろうとすると腕が伸びてしまう人がいます。そんなときは『肘は90度に曲げて手のひらは卵を握るくらいの強さで握る』ようにするとたいてい解決します。
これは腕振りの指導ではほぼ100パーセント聞く基本中の基本です。レベルが上がればもっと感覚的な動きをするようになりますが、基本的には見た目の動きはこの通りになっていたほうがいいと思います。
グーでもパーでもなんだっていいとは思いますが、力まないほうがいいでしょう。

腕は肘を引くように振るといい?

腕を振る意識は前に振るものなの?それとも後ろに振るものなのか?それに対する答えとして肘を引く意識で腕を振るというのがあります。
ここまで紹介したように、腕振りは大きな反発をもらうために必要なものであって、それ自体で推進力を得ているわけではありません。ダブルアームでは前に跳ぼうとすれば腕を前に投げ出すイメージになるし、高く跳ぼうとすれば上に持っていくイメージになります。ってことは、実際のところは前に振ろうが後ろに引こうがどっちでもいいと思います。
ただ、多く言われているのは肘を引くという意識。これはけっこう大事。肘に意識をおいてで腕を振れば、脇が開くことなく大きな腕振りができます。

腕は前後に正確に動かす

腕は腰を中心にして円運動しようとします。ってことは、前後じゃなくて斜め方向に動きがち。簡単にいえば、適当に振っちゃうと女の子走りの腕振りになります。マラソンなんかではそういう振り方をする選手もいますが、スプリントではこの振り方だとパワーが出ません。スプリントで女の子走りをしてしまうと、脇が開き地面に力を加えることができなくなってしまいます。
真正面からスプリントをビデオ撮影してみると、腕が正確に振れているかがわかります。
もし、腕が体の前(お腹のあたり)にくるような腕振りになっているなら女の子走りになっています。この腕振りでは足の回転をサポートしているだけで、地面に力を加えることはできていません。ってことは反発はうまれません。
しっかりと肘を引く意識をすることで、脇が閉じて前後に腕を振ることができます。そうすれば腕は体の前ではなくて顔(耳)の横までしっかり振れてくるはず。こうすると、腕振りが地面に力を加えて大きな反発が得られるようになります。

肩を入れて体を流すな!!

タイミング良く大きな腕振りをしていてもその力が逃げてしまっては無駄です。速く走るためには、生みだした力を推進力に変える必要があります。
腕振りの失敗しやすいポイントとしては『体が流れる』という現象があります。腕と脚は連動するので、体が流れれば足も流れてしまいます。スプリントでひとたび流れてしまえば回転は落ち反発は減りスピードはどんどん下がっていきます。速く走るなら流してはいけないのです。

グっと肩を入れるとグイっと体が進む

陸上では肩のラインと骨盤のラインはねじらないほうが良いという理論があり、私もそう思っています。
右腕を引いたときに大きく振ることだけを意識してしまうと、右肩が大きく後ろに持って行かれます。これが体が流れている状態。
右腕を引いた時に右肩をグっと前に内旋させると腕がガチっと止まります。このガチっと止めるちからが体を進める推進力になります。

 

とりあえず腕振りはこんなもの。
腕振りだけでもいろいろとテクニックがあるのです。が、実際に速く走るためには結局のところ脚をどう使うかではあると思います。
腕の使い方は脚の使い方とリンクしているので、脚をうまく使うためにも腕をうまく使えるようになると良いでしょう。






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